マイボーム腺

  • 上下の瞼板内にある独立皮脂腺
  • マイボーム腺の開口部は上方で約30箇所, 下方で約20箇所.
  • 分泌物(meibum)は涙液油層を形成し, 涙液層の安定性に貢献する.

マイボーム腺

Meibomian gland dysfunction = MGD

  • さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う.*
  • MGDは瞼の疾患. ドライアイは涙液の異常.
  • マイボーム腺が涙液の成分である脂質を分泌する事から, MGDはドライアイの原因の一つとなる.

*天野史郎(MGDワーキンググループ):あたらしい眼科 27:627,2010

MGD

MGD 診療ガイドライン:作成開始までの経緯

  • MGDに関する基礎的・臨床的研究が近年急速に蓄積され,MGDが眼科医療界・社会全体で広く認知され, MGD診療をサポートするガイドラインを作成する機運が高まっていた.
  • MGDの診療をサポートする報告としては, 2010年に国内でMGDワーキンググループがMGDの定義, 分類, 診断基準を発表しており, 広く使われてきたが, 包括的な内容ではなかった. 海外では2011年にInternational Workshop on MGDがMGDに関する知見を包括的に報告したがauthority-basedなものであった. 今回,evidence-basedで包括的な内容を持つMGD診療ガイドラインを日本角膜学会の研究費のサポートを受けて,初めて作成した.

MGD 診療ガイドライン

MGD診療ガイドライン 内容

  • 緒言
  • ガイドラインサマリー BQ1-6とCQ1-30のサマリー
  • 第1章 作成経過
  • 第2章 定義, 分類, 診断基準
  • 第3章 スコープ
  • 第4章 推奨(病態・分類・類縁疾患, 疫学・リスク因子, 診断・検査, 治療)
  • 第5章 公開後の取組み

目的と方針

目的:MGDの診療に関わるすべての人に対して,診断や治療に関する医療行為の決定を支援するための診療ガイドラインを作成する.

方針:作成にあたっては,可能な限りMinds方式に準拠し,エビデンスに基づいた診療ガイドラインを作成するように留意した. 取り上げる論文は原則として無作為化比較試験(randomized controlled trial :RCT)とし, 必要に応じてその他の論文も取り入れる.

MGDの定義

さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う.
(従来の定義を踏襲)

MGDの分類

1.分泌減少型

①先天性
②閉塞性(原発性,続発性)
③萎縮性(原発性,続発性)

2.分泌増加型

注釈:続発性の要因としては,以下のものが考えられる.
加齢,アレルギー眼疾患,眼瞼炎,Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡,移植片対宿主病,Sjögren syndrome症候群,トラコーマ,薬剤性障害,化学傷,熱傷

病態生理:分泌減少型MGD

分泌減少型MGDの主な病態

  1. 導管上皮の過角化
  2. 腺細胞の変化

分泌減少型MGD

疫学・リスク因子

有病率に関しては, 日本での6歳から96歳までの住民を対象としたpopulation-based studyでは,19歳以下で0%,20歳代11.8%,30歳代5.6%,40歳代21.6%,50歳代32.8%,60歳代41.9%,70歳代48.4%,80歳代63.9%であった.

Arita R, et al. Am J Ophthalmol 207:410-8, 2019.

疫学・リスク因子 表

MGD発症のリスク因子としては, 加齢, 男性および閉経後女性, アジア人, VDT作業,喫煙,ソフトコンタクトレンズ装用,緑内障点眼薬, 糖尿病,脂質代謝異常,高血圧,甲状腺機能亢進症, 酒さ,Sjögren症候群,Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病,アンドロゲン欠乏などがある.

診断

MGDの診断に有用な検査は, 自覚症状の聴取, 眼瞼縁の解剖学的変化(マイボーム腺開口部閉塞所見,眼瞼縁血管拡張,粘膜皮膚移行部の移動,眼瞼縁不整)の観察, meibumの量や質の変化の観察, マイボグラフィー.
これらのうち, MGDの診断に必須の自覚症状, マイボーム腺開口部閉塞所見, meibumの量的・質的変化は診断基準に組み入れられ, それ以外の検査は参考所見として診断基準に記載された.

診断

分泌減少型MGD 診断基準

以下の1,2をいずれも満たすものを分泌減少型マイボーム腺機能不全とする.

  1. 自覚症状
    眼不快感,異物感,乾燥感,圧迫感,流涙などの自覚症状がある.
  2. 眼瞼縁の異常および分泌物の質的,量的異常
    ①または②を満たす場合,2を満たすと考える.

    ①マイボーム腺開口部閉塞所見を瀰漫性に認める.
    ②拇指による眼瞼の中等度圧迫,もしくは鑷子や鉗子による眼瞼の圧迫でマイボーム腺開口部からのmeibumの圧出が低下している,もしくは粘稠なmeibumの圧出を認める.

分泌減少型MGD 診断基準

注釈

  1. 自覚症状に関しては,マイボーム腺機能不全による症状と他の眼表面疾患に起因する症状との鑑別が必要である.明らかに他の眼表面疾患に起因する症状は除外して判断する必要がある.
  2. 以下の所見は,分泌減少型マイボーム腺機能不全のサブタイプ診断,重症度判定,鑑別診断のために有用であり,参考所見としてその有無を評価することを推奨する.ただし診断基準には含めない.

    ①マイボーム腺開口部周囲の血管拡張もしくは瞼縁の発赤
    ②粘膜皮膚移行部の前方または後方移動
    ③眼瞼縁不整
    ④マイボグラフィーによる腺脱落
    ⑤角膜異常所見(フルオレセイン染色異常,血管侵入,結節)
    ⑥涙液層破壊時間,涙液層破壊パターンの異常

MGD診療ガイドライン:治療の推奨

強く推奨:温罨法
弱く推奨:眼瞼清拭, meibum圧出, アジスロマイシン点眼, ステロイド点眼, オメガ3脂肪酸内服, 抗菌薬内服, intense pulsed light, thermal pulsation therapy.

推奨の基準を決める際には, エビデンスに基づく有効性・安全性以外に, 保険適用があるかといった点も考慮された. 従って推奨が弱いからといって効果が低いというわけではない. 高い効果の期待できる治療法であっても自費診療の対象となる場合は弱い推奨になっている.

エビデンスに基づく治療

ホームケア 投薬 クリニック

まとめ

  • 初めてのevidence-basedなMGD診療ガイドラインを作成した.
  • 定義, 分類, 診断基準を提唱した.
  • 病態生理, 疫学・リスク因子, 診断, 治療についての推奨を行った.
  • 作成のサポートをしてくださった日本角膜学会ならびにドライアイ研究会の関係者の皆様, 作成に貢献してくださった多くの先生方に深謝する.