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全層角膜移植術

1.はじめに

以前は、角膜移植といえば全層角膜移植(PK)のことを指していた。また、PKには長い歴史があり、成績が安定していることで、臓器移植の代表として確固たる地位を確立している術式である。PKは、今なお良い術式として多くの症例に対して施行され、その成績も良好であるものの、角膜疾患の病態の解明や手術手技の進歩に伴い、選択的層状角膜移植が一般化した結果、PKは角膜移植のなかの選択肢の一つと考えられるようになっている。

2.適応

PKの適応は、他の角膜移植同様に治療的適応と光学的適応に大別される。治療的適応は、重症角膜感染症、角膜穿孔、外傷などに対して、原疾患の治療を目的として緊急で角膜移植を行うものである。新鮮角膜の提供がない場合には、保存角膜が使用されることもある。これに対して、多くのPKは、光学的適応で視力回復を目的として手術が施行される。角膜疾患により視力が低下している症例で、内科的治療、コンタクトレレンズ装用、エキシマレーザー治療的角膜切除術などで視力の回復が得られない症例が角膜移植の対象となる。その中で、角膜上皮幹細胞疲弊症がなく、深層層状角膜移植(DALK)、角膜内皮移植(DSAEK)など選択的層状角膜移植の適応でない症例がPKの適応と考えられる。表1に、3者の長所、短所を示す。

表1 全層角膜移植、角膜内皮移植、深層層状角膜移植の長所と短所
PKP DSAEK DALK
適応 ×
Learning curve ×
ガスによる合併症 × ×
Open sky ×
Interfaceの問題 × ×
母角膜の混濁 × ×
拒絶反応 ×
ステロイド副作用 ×
外傷 ×
縫合糸合併症 ×
三叉神経障害 × ×
屈折誤差 × ×
不正乱視 × ×

特に、角膜実質と内皮の両方に問題のある症例、広汎な虹彩前癒着、虹彩異常や瞳孔異常の修復が必要な症例、白内障手術が困難である症例などがPKの良い適応である。具体的には、急性角膜水腫後の円錐角膜(図1)、強い実質瘢痕を伴う水疱性角膜症(図2)、PKの再移植(図3)などがその代表的である。

図1 急性角膜水腫後の円錐角膜

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図2 水疱性角膜症を伴う角膜白斑

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図3 全層角膜移植後の再移植+白内障同時手術

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3.術式

(1)麻酔

PKは、局所麻酔、全身麻酔のどちらでも可能である。ハイリスク症例や虹彩癒着解離や瞳孔形成など前眼部の再建が必要な症例においては全身麻酔のほうが手技が容易になる。全身麻酔においては、麻酔の目的が痛みや恐怖心の除去あるいは術中の安静のみでなく硝子体圧を下げるための十分な筋弛緩が重要であること、オープンスカイ時のバッキングの危険性を麻酔医に伝えておく必要がある。局所麻酔の場合には、球後麻酔と瞬目麻酔を十分に効かせる。

(2)手術手技

PKには様々な手術手技があり、また白内障の同時手術や虹彩癒着剥離、瞳孔形成などの有無により手順は大きく異なるが、ここでは単純なPKの例を記載する。

  1. ショット開瞼器等を用いて眼球を圧迫しないように開瞼する。
  2. ソフトアイであることを確認する。そうでない場合はcore vitrectomyを施行する。
  3. フリリンガリングを縫着する。
  4. サイドポートを作製し、粘弾性物質を前房内へ注入する。
  5. 角膜の地理的中心および縫合位置にマーキングし、中央より輪部までの距離を測定しトレパンサイズを決定。
  6. センタリングを確認してトレパンを吸引し、500マイクロン程度切開する。サイズを再度確認し、移植片のサイズ決定。
  7. ドナー角膜をパンチし、内皮を粘弾性物質で保護
  8. 一カ所で穿孔し、サイドポートより粘弾性物質注入
  9. カッチン剪刀で角膜全周切開する。
  10. 粘弾性物質を角膜周辺部にのせる。
  11. 移植片を10−0ナイロンで端々縫合
  12. 粘弾性物質を前房内に追加して、前房形成
  13. 10−0ナイロンで連続縫合ないし端々縫合追加
  14. シムコ針などで前房洗浄、人工房水で眼圧調整
  15. マロリーリングで乱視調整
  16. ステロイド結膜下注射、抗菌薬眼軟膏、必要に応じて治療用コンタクトレンズ装用

4.術後管理

(1)投薬

ステロイド全身投与は、点滴から内服で漸減する。ステロイドの点眼、軟膏、抗菌薬の点眼を処方し、症例に応じて漸減する。

(2)早期のチェックポイント

移植片の透明度、厚み、デスメ膜皺襞、移植片母角膜接合部、縫合糸、上皮欠損や上皮障害、ザイデルの有無、前房内炎症、眼圧などをチェックする。

(3)中長期のチェックポイント

拒絶反応、緑内障、感染症、縫合糸の緩み、グラフトへの血管侵入、角膜厚、角膜内皮細胞密度、角膜上皮障害、角膜形状などを定期的にチェックする。

5.合併症

(1)術中合併症

最大の術中合併症は駆逐性出血である。頻度は低いが麻酔を効かせ、硝子体圧を下げ予防することが肝要である。トレパンの際はセンタリングのずれに注意し、角膜切開の際は、虹彩損傷や水晶体損傷に注意し、ドナーの内皮が機械的に損傷しないように粘弾性物質で保護する。また、縫合では乱視を軽減するために注意する。

(2)術後合併症

術後は、拒絶反応、緑内障、感染症、遷延性上皮欠損、外傷による創の哆開に中止して定期的に経過観察することが重要である。また乱視に応じて糸の調整や選択抜糸を施行する。

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