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結膜弛緩症の診療

結膜弛緩症とは?

結膜弛緩症とは、両眼の球結膜に生じた、非浮腫性、皺襞状の変化のことであり(図1上)、中高年に高頻度にみられ、単なる結膜の起伏にとどまらず、瞬目時に眼瞼結膜や角膜と強い摩擦を生じる原因になるとともに涙液層の安定性低下を引き起こし、さらに、眼表面における涙液のターンオーバを障害してドライアイや流涙症の原因となり得る。本疾患の本質的病態は、加齢性の結膜組織の弾性の低下(膠原線維、弾性線維の密度減少、弾性線維の断裂)に加えて、結膜下組織が強膜から乖離することにあり、結膜表面に起伏を生じるとともにその可動性が増加することによって、結果として様々な眼症状を引き起こす。

結膜弛緩症の発症メカニズムとして、瞬目、ベル現象、眼球運動といった結膜に対する摩擦のメカニズムや炎症による結膜下の支持組織の崩壊が推定されているが、弛緩結膜の病理組織像をみる限りにおいては、炎症所見には乏しく、リンパ管拡張症、結膜下の弾性線維の断裂、膠原線維の密度の低下といった、加齢あるいは結膜に対する眼瞼結膜の摩擦の影響が推定される組織変化が主体をなしている。

結膜弛緩症には、限局性のものから球結膜全体に及ぶもの、リンパ管拡張症を主体とするものまで様々な表現形が存在し得るが、それは、以上のような結膜下組織の異常の組み合わせを反映しているものと考えられる。

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結膜弛緩症の診断

結膜弛緩症は、ドライアイのコア・メカニズムである涙液層の安定性の低下や瞬目時の摩擦亢進と強い関連をもつため、涙液のフルオレセイン染色を行って涙液や上皮をよく観察し、その病態や病的意義を考えながら診察することが重要である。結膜弛緩症が存在する場合は、涙液をフルオレセインで染色後したあと、強く瞬目させると、眼表面の涙液の流路である下方の涙液メニスカスにおける弛緩結膜の分布や涙液メニスカスの途絶の様子を観察し得る。また、フルオレセインの染色直後に涙液メニスカスの高さが高いようにみえても、強く瞬目させると、涙小管ポンプ機能がよく働いて、涙道機能に異常がない場合は、メニスカスは低くなる。この場合、たとえ流涙症が主訴でも、メニスカスを占拠する結膜弛緩症を手術し、下方の涙液メニスカスを完全再建(図1下)できれば、その流涙症は消失し得る。また、角膜下方に上皮障害がみられる場合も、それが弛緩結膜と角膜との瞬目時の摩擦亢進で生じている場合は、結膜弛緩症手術で異物感や角膜下方の上皮障害を治せる可能性がある。

次に、上方を見させて結膜嚢円蓋部の位置異常の有無を確認する。結膜弛緩症には、大きく分けて円蓋部の上方への変位を伴わないタイプ(単純型結膜弛緩症)とそれを伴うタイプ(円蓋部挙上型(図2):結膜嚢円蓋部の位置決めに関与するCPF(Capsulopalpebral fascia)の弛緩を合併)があり、後者は、円蓋部を正常の位置に再建しないことには、結膜弛緩症を治すことができないことに注意する必要がある。

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最後に、上方の結膜弛緩の有無を観察する。上方の結膜弛緩は、上眼瞼を介して上方の球結膜を擦り下ろすようにしながら上方のメニスカスを観察するとよい。上方の結膜弛緩(強膜からの剥離)がある場合は、上方の涙液メニスカスから弛緩結膜が出てくる様子を確認することが可能である(図3)。上輪部角結膜炎、あるいはそれに準じた結膜の炎症所見、あるいはそれらがなくても、上方の結膜弛緩によって瞬目時の摩擦が亢進して不定愁訴を訴えている例があり、そのような例では上方の弛緩結膜に対する手術が有効である。

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結膜弛緩症の手術

結膜弛緩症は、涙液層の分布やその動態を変化させてドライアイを生じせしめたり、既存のドライアイを増強する要因となる。結膜弛緩症に対する術後に涙液層破壊時間(breakup time)が延長することが知られており、そのことからも、結膜弛緩症が涙液層の安定性を低下させてドライアイのコア・メカニズムに関係することがわかる。そのため、自覚症状を伴う結膜弛緩症に対しては、まず、ドライアイ治療[人工涙液(塩化ベンザルコニウムを含まない人工涙液 7回程度/日]と低力価ステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン2回/日)など]あるいは、近年登場した、ムチンや水分分泌を促進する点眼液、3%ジクアホソルナトリウム点眼液やレバミピド点眼液UD2%を含めた眼表面の層別治療を1ヶ月~3ヵ月ほど行ってみてから、その無効例に手術を考慮するのがよいと思われる。

手術が効果的な三大症状は異物感、流涙、再発性結膜下出血であり、手術目標は、乖離した結膜をその表面に皺襞を残さないようにしながら強膜に密着させ、瞬目時の摩擦亢進を改善するとともに、眼表面における涙液の流路である外眼角から涙点までの下方の涙液メニスカスを再建することに尽きる。とくに流涙が主訴の場合は、涙液メニスカスの完全再建が治療目標となる。そのポイントとなるのは、下涙点と半月ヒダおよび涙丘との位置関係であり、とくに半月ヒダは加齢性に耳側にシフトして、涙点の手前でメニスカスにおける涙液の流れを遮断している場合が多い。また、涙丘の耳側変位は、先に述べた円蓋部挙上型結膜弛緩症との関連があり、涙点が涙丘に対面する例では、涙丘のボリュームを減らして、涙点との関係を正常化しないと流涙を完治させることができない。しかし、涙丘切除術を必要とする円蓋部挙上型結膜弛緩症は、手術が容易ではないため、単純型で十分な経験を積む必要があると思われる。手術術式として、焼灼や切除でその表面から結膜を短縮して強膜に近づける様々な方法、結膜を引き伸ばして周辺で強膜に固定する方法、結膜下を焼灼して癒着を促す方法、結膜下の線維組織やリンパ管拡張を切除した後、結膜全体を術後炎症で強膜に癒着させる方法などがある。しかし、結膜弛緩症の本体が結膜と強膜との乖離である限り、結膜下の異常に対するアプローチを併用しない方法は、結局、部分的な改善になるか、遠隔的に再発を来して完璧な方法とはなり得ない。これは、球結膜に対する瞬目時の摩擦が予想以上に大きいためと思われる。その表現形が非常に多彩であることや、リンパ管拡張による結膜の起伏や半月ヒダによるメニスカスの遮断がある場合は、それらの切除なくしては結膜弛緩症を完治させられないことを考えると、今のところ、個々の症例に応じてその病態を考えながらテーラーメード的に対応するのが最もよいと思われる。

本疾患は、手術で治せる眼不定愁訴の代表疾患であり、本疾患が完治すれば、ドライアイをはじめとする次の治療目標がみえてくる。眼不定愁訴の原因疾患の一つとしての本疾患の意義はますます重要になってきていると思われる。

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