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結膜炎の鑑別診断

結膜炎は眼科臨床で最も遭遇する機会の多い疾患である。感染の危険のある結膜炎患者の鑑別は外来診療では非常に重要で、また治療方法もアデノウイルス結膜炎と急性出血性結膜炎を除き確立している。結膜炎の鑑別診断について述べる。

結膜炎の分類(表1)

結膜炎は感染性結膜炎と非感染性結膜炎に分類される。感染性結膜炎の病原としては ウイルス、細菌、クラミジアがあり、非感染性結膜炎はアレルギーが原因である。

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鑑別診断の方法(表2)

鑑別診断は、問診と細隙灯顕微鏡検査が基本である。更に確定診断法としてウイルス学的検査、アレルギー抗原および抗体検査、細菌検査が用いられる。また補助診断法として結膜擦過物の検鏡も、病原菌や免疫細胞の種類によって鑑別に役立つ。

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問診(表3)

問診は鑑別診断の第一歩である。

急激な発症ではアレルギーやウイルスをまず考える。片眼発症は細菌やクラミジアが多く、アレルギーなどでは両眼のことが多い。かゆみが主体ではアレルギーがまず疑われ、疼痛や異物感が強い場合にはウイルス性結膜炎が最も疑わしい。

そして全般的な頻度と好発年齢を頭に入れておく。全般的な頻度でいうと、アレルギー性結膜炎患者が圧倒的に多く、次に細菌、ウイルスの順で、クラミジアはずっと頻度が低い。

また年齢によっても差があり、乳幼児では細菌性結膜炎が最も多いが、学童期以降になるとアレルギー性結膜炎が多くなり、60歳以上では細菌性結膜炎の頻度が増加する。

当院の細菌性結膜炎の年齢分布と、タクロリムス点眼液市販後調査での春季カタルの患者年齢を重ねると、両者の発生年齢の差異が明確にわかる(図1)。

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アレルギー性結膜炎(図2)

このように頻度からいうとアレルギー性結膜炎が最も多いので、まずアレルギー性結膜炎を見つけることが大事である。

掻痒感の有無、季節性の有無、および鼻炎などの他のアレルギー性疾患、とくに季節性のアレルギー性鼻炎およびアトピー性皮膚炎の有無について問診する。

所見としては、眼脂は少なく、結膜は浮腫性で全体に充血しており、眼瞼結膜や結膜嚢に濾胞や乳頭形成を認める。輪部浮腫も重症のアレルギー性結膜炎に特徴的な所見である。アトピー性角結膜炎や春季カタルでは角膜びらんや角膜潰瘍を生じることもある。

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アレルギー性結膜炎の確定診断(図3)

アレルギー性結膜炎ガイドラインでは、アレルギー性結膜炎の診断を臨床診断、準確定診断、確定診断の3段階に分けている。臨床所見にプラスして抗原特異的なIgE測定や皮膚反応による診断を準確定診断、結膜擦過物からの好酸球の検出あるいは涙液からの局所IgEの検出を伴うものを確定診断としている。涙液中のIgE検出と結膜好酸球検査には高い相関関係があることが報告されており、アレルギー性結膜疾患に特徴的な臨床所見をもち、涙液IgEが検出される場合には確定診断としてよい。

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アレルギー性結膜疾患の分類(図4)

アレルギー性結膜疾患は、基本的に器質的な病変をもたずアトピー性疾患ももたない季節性アレルギー性結膜炎および通年性アレルギー性結膜炎と、結膜乳頭増殖を主徴とする器質変化あるいはアトピー性疾患に伴う春季カタル、アトピー性角結膜炎、コンタクトレンズ装用が原因として起こる巨大乳頭結膜炎に分類される。このうち巨大乳頭増殖を伴う結膜炎でアトピー性皮膚炎を伴うものはアトピー性角結膜炎あるいは春季カタルに属するか判断が分かれるが、アトピー疾患が結膜炎の発症増悪に強く関与している場合にはアトピー性角結膜炎として分類することが多い。

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春季カタルとアトピー性角結膜炎(図5、6)

春季カタルは巨大乳頭増殖や輪部浮腫を特徴とする。アトピー性角結膜炎は乳頭増殖を伴わないこともあるが、強い炎症が持続する結果として眼表面障害(角膜血管侵入、結膜嚢短縮、色素沈着など)を来す。

また両者ともに重症例では角膜病変(点状表層角膜炎(SPK)、落屑様角膜びらん、角膜シールド潰瘍、角膜プラーク)を伴うことがある。

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細菌性結膜炎(図7)

アレルギー性結膜炎の次に遭遇する頻度が高いのが、細菌性結膜炎である。乳幼児と老人に多く、青壮年では比較的少ない。急性で片眼の発症が多いが、両眼に発症することもある。典型例では大量の眼脂で朝、開瞼ができない、というのが典型的な訴えである。細隙灯顕微鏡での観察のポイントは黄色膿性眼脂で、下眼瞼結膜に濾胞を認めないことが特徴である。(表4)

通常は発症はマイルドなことが多いが、淋菌性結膜炎では非常に強い結膜炎症を来し、急激に角膜穿孔に至ることがある。このため大量の眼脂と充血および開瞼ができないほどの疼痛を伴う結膜炎をみたときは、淋菌による結膜炎の可能性を考慮し、緊急に入院の上、抗菌薬の全身投与の必要がある。

検査は結膜嚢擦過物で、検鏡による細菌検出か、培養検査で細菌の検出と薬剤感受性の判定を行う。抗菌点眼薬を使用すると培養による細菌検出は難しいことが多いので、治療を始める前に培養検査を行う。

結膜炎の検出細菌は、老人ではグラム陽性菌であるコリネバクテリウムや黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌が多いが、乳幼児などではグラム陰性桿菌であるインフルエンザ菌の検出が多い。淋菌性結膜炎を疑う場合には迅速な治療開始が必要なため、結膜擦過標本でグラム陰性双球菌を認めた場合には淋菌として治療した方がよい。

コリネバクテリウムではセフェム系抗菌点眼薬、インフルエンザ菌ではキノロン点眼薬が効果的であるが、薬剤無効例ではブドウ球菌ではMRSAやMRSEなどの耐性菌を考慮する必要がある。淋菌を疑う場合にはセフトリアキソン(商品名ロセフィン)の点滴治療が必要である。

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クラミジア結膜炎(図8)

青壮年の男女に発症し、大部分はSTD(sex transmitted disease)である。急激に発症する結膜炎で、強い異物感、腫脹、充血と眼脂を認め、片眼または両眼に発症する。細隙灯顕微鏡所見では癒合した結膜の巨大濾胞が特徴的な所見で、堤防状と表現される。耳前あるいは顎下リンパ節の腫脹を伴うことが多い。

検査では結膜擦過物のギムザ染色により封入体を認めることが確定診断である。また補助診断として血清クラミジア抗体価測定でIgGおよびIgAが検出された場合にも強く疑われる。IgGのみでは過去の感染の可能性が高く、診断には結びつかないが、抗体陰性の場合はクラミジア結膜炎を否定することができる。

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ウイルス性結膜炎(図9)

児童から青壮年にかけて幅広く発症する。原因ウイルスとしては、アデノウイルスが圧倒的に多く、次にヘルペス性結膜炎で、エンテロウイルス70あるいはコクサッキーA24変異株による急性出血性結膜炎はまれである。

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アデノウイルス結膜炎(表5、6)

急激に発症する片眼または両眼の濾胞性結膜炎で、潜伏期は7日程度とされている。下眼瞼結膜に細かい濾胞を認め、充血は球結膜および眼瞼結膜で高度である。眼脂は漿液線維素性と表現され、どちらかというと白っぽい粘液性の眼脂である。耳前および顎下リンパ節の腫脹を認めることがある。

確定診断は、結膜擦過物から固相抗体法によるアデノウイルス検出キットを用いてアデノウイルスを検出する。感度は70〜80%とされ、特異性はほぼ100%である。発症3日以内の検査により高い確率で検出できる。

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ヘルペス性結膜炎(図10)

再発性の片眼性の濾胞性結膜炎で、球結膜充血が強い。同じ眼に何度も発症することがあり、アデノウイルス検出キットは当然、陰性である。アデノウイルス結膜炎とは臨床所見では区別できないことが多い。角膜や結膜に樹枝状潰瘍を生じる場合があるので、この場合は確定診断できる。

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急性出血性結膜炎(図11)

エンテロウイルス70あるいはコクサッキーA24変異株による急性のウイルス性結膜炎で、感染力が非常に強く、過去に世界的な流行を何度か起こしたことがある。現在でも、時に散発的に流行することがある。

臨床所見は典型的には両眼性の急激に発症する濾胞性結膜炎で、眼痛や流涙などの症状が強く、しばしば患者は発症時間を覚えている。潜伏期が14時間から48時間と短いことも特徴である。細隙灯顕微鏡所見では、点状結膜下出血を伴うことが特徴であるが、現在では結膜下出血を伴わないことも多い。

確定診断法は、血清抗体価の上昇で、日本人の血清抗体保有率は極めて低いので、血清抗体価の上昇を認めたら、確定診断としてよい。

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おわりに

結膜炎の鑑別診断について概略を解説した。臨床所見からの結膜炎の診断法については、日本眼科学会 ウイルス性結膜炎ガイドラインにも掲載されているので、参考にしていただきたい。

結膜炎は、正しい診断によってウイルス性結膜炎以外は治療方法が確立されており、ウイルス性結膜炎では流行予防対策を講じるためには正しい診断を下す必要がある。多忙な一般臨床でも、スリットランプだけでも、かなりの部分まで正しい診断ができることを強調したい。

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